FADIR肢位で考える股関節疼痛評価に必要な大腿骨頭頚部移行部周囲の局所解剖

1. FADIR肢位は疼痛を誘発しやすいが原因を特定する検査ではない

股関節屈曲・内転・内旋位は、FADIRテストとして股関節痛の評価で用いられる肢位です。

この肢位では股関節前面や鼠径部の疼痛が誘発されることがありますが、FADIRテストで疼痛が生じた場合には、その所見をどのように解釈するかが重要になります。

FADIRテストは股関節に関連する疼痛の有無を確認するために臨床で用いられる評価であり、「どの組織が痛みを出しているのか」を考えるための手がかりとして位置づけることができます。

そのため、FADIR肢位で疼痛が生じた場合には、検査結果を陽性・陰性だけで捉えるのではなく、股関節周囲のどの構造に負荷が生じている可能性があるのかを考える入口として整理する必要があります。

2. 股関節疼痛と可動域制限には複数の構造的因子が関与する

股関節の疼痛や可動域制限には、複数の構造的因子が関与します。

骨形態、関節唇、関節包、靭帯、筋、脂肪体、疎性結合組織、神経など、股関節周囲には多くの組織が存在しています。FADIR肢位では、股関節運動に伴って、これらの構造ごとに圧迫、伸張、滑走、接触などの負荷条件が変化します。

つまり、FADIR肢位で疼痛が生じたとしても、この所見だけで原因を単一の組織に限定することはできません。

さらに、股関節周囲の負荷は局所構造だけで決まるものではありません。骨盤や体幹のアライメント、下肢全体の運動連鎖、荷重下での筋活動は、股関節周囲筋の張力バランスに影響します。

そのため、股関節の可動域制限と疼痛を評価する際には、骨・関節・軟部組織といった構造的因子に加えて、筋張力バランスという動的因子も合わせて考察する必要があります。

3. 股関節運動に伴う局所構造の位置変化を視覚的に理解する

股関節の解剖図は、股関節中間位を基準に描かれることが多くあります。

中間位の解剖図は、骨、筋、血管、神経などの基本的な位置関係を理解するうえで重要です。一方で、臨床で行う評価、運動療法、徒手療法では、股関節は常に中間位にあるわけではありません。

屈曲、内転、内旋といった運動が加わることで、大腿骨頭頚部移行部の周囲にある組織の位置関係は変化します。骨に対して筋や脂肪体、疎性結合組織がどのように配置されるのか。関節包や靭帯の近くで、どの構造がどの方向に位置するのか。こうした運動肢位での局所解剖をイメージできることは、評価の解釈に大きく関わります。

今回描いたイラストは、股関節屈曲・内転・内旋位における大腿骨頭頚部移行部周囲の断面構造を示したものです。

このイラストで示したいのは、FADIRテストで疼痛を出す原因を一つに決めることではありません。

重要なのは、FADIR肢位という股関節運動の中で、大腿骨頭頚部移行部の周囲にある構造がどのような位置関係に置かれるのかを視覚的に捉えることです。

股関節の評価や運動療法、徒手療法の精度を高めるためには、静止した解剖学的知識だけでなく、運動に伴う構造の変化をイメージする力が必要です。

私は、そのような臨床で必要となる解剖学的イメージを深めるために、股関節運動に伴う局所構造の位置変化を描くことを大切にしています。

 

投稿者
福山真樹

メディカルアナトミーイラストレーター
理学療法士
イラストスタジオ福之画代表
鳥取県理学療法士会 イラスト担当
日本理学療法士会 推薦 公式イラスト担当
京都芸術大学通信教育部イラストレーションコース非常勤講師(美術解剖学・添削採点担当)

解剖学的構造と運動学的関係性を踏まえた図解、疾患理解を助ける病態イラスト、教育・出版向けの専門的な人体イラスト制作を行っています。
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イラストスタジオ福之画HP:https://fukunoe.com/new/

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