歩行器使用時にみられる前傾姿勢と依存的歩行―重心・筋活動から考える評価と運動プログラム―

<歩行器に依存した姿勢の課題>

歩行器を使用する高齢者において、上肢支持への過度な依存がみられる場合、身体重心は前方へ偏移しやすく、結果として体幹の前傾姿勢(いわゆる前かがみ姿勢)が助長されます。

このような代償的姿勢が常態化すると、立位保持や歩行時に求められる抗重力筋、とくに脊柱起立筋群や大殿筋の活動性が低下します。
その結果、姿勢保持機能の低下を招き、脊柱後弯の進行を助長する一因となります。

 

歩行器が先に進む、歩行、体幹、イラスト

 

さらに、体幹を自力で直立位に保持する能力が低下すると、外部支持なしでの立位保持や歩行の安定性確保が困難となり、歩行器への依存が一層強まるという負の循環に陥ります。

体幹前傾が強い状態では、脊柱起立筋や大殿筋による体幹伸展が十分に得られないため、歩行器を身体側へ引き寄せながら操作することが難しくなります。
その結果、歩行時に歩行器が前方へ先行して移動してしまう現象が生じます。

臨床現場でよく観察される「歩行器が先に進んでしまう」状態は、こうした姿勢・筋活動の問題が背景に存在していることが少なくありません。

 

 

<注意すべきリスク>

「歩行器が先に進んでしまう」状態では、歩行速度に対して歩行器の前方移動が過剰となり、ご本人も不安定さを自覚しているケースが多くみられます。

前方へ移動する重心を十分に制御できない状況では、転倒リスクが高まるだけでなく、上肢支持がなければ立位保持そのものが困難となる可能性があります。

このようなリスクを軽減し、安定した立位および歩行能力を獲得するためには、体幹を伸展位で保持できるだけの脊柱起立筋群や大殿筋の筋活動を段階的に高めていくことが重要となります。

 

 

<プログラム立案のポイント>

体幹前傾を軽減を目的に立位で体幹伸展運動を促すと、脊柱起立筋や大殿筋の活動が十分でない場合、代償として膝関節を前方へ突き出す下肢の屈曲や、上肢を大腿部で支持して体幹を支える動作が出現しやすくなります。

このような代償動作を伴う見かけ上の体幹伸展運動では、目的とする筋群の活動向上は十分に得られません。

そのため、まずは椅子座位を用い、下肢による代償が生じにくい安定した肢位を設定します。
骨盤後傾位から可能な範囲で骨盤前傾位をとり、臀部を座面奥まで位置づける、あるいはポジショニングクッションなどを活用することで、骨盤位置を前傾位で保持しやすい環境を整えます。

骨盤位置が安定した肢位では、体幹伸展運動に伴う脊柱起立筋の活動を引き出しやすくなります。
自動運動による体幹伸展の認識が難しい場合には、上肢挙上を組み合わせることで、体幹の運動方向を視覚的・体性感覚的に理解しやすくなります。

棒を持ち上げるなど、物品を用いた課題設定も、運動方向の理解を助ける有効な方法です。

座位、立位、体幹伸展運動

 

このように、目的とする筋活動を引き出しやすい安定した肢位を設定し、単純で理解しやすい運動から段階的に進めることは、対象者の身体的・認知的負担を軽減し、運動学習を促進する上で重要です。

同様の考え方は大殿筋をはじめとする他の筋群にも応用可能であり、負荷量の調整や関節運動の連動を加えることで、段階的なプログラム展開へと発展させることができます。

 

 

<作画の様子>

本記事で使用したイラストの作画過程を、タイムラプス動画としてご紹介しています。

イラストでは、上半身重心および総合重心の位置関係を意識し、上肢支持によって姿勢が保持されている状態が視覚的に理解できるよう構成しています。

 

<オリジナルイラストの制作>

歩行や立位姿勢、動作の理解に不可欠な解剖学・運動学的概念は、図を用いた可視化によって理解が深まります。
福之画では、解剖学・運動学に基づいた医療・教育向けイラストを多数制作しており、書籍や教材などでの実績も豊富です。
イラストや解剖図の制作をご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。

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投稿者
福山真樹

メディカルアナトミーイラストレーター
理学療法士
イラストスタジオ福之画代表
鳥取県理学療法士会 イラスト担当
日本理学療法士会 推薦 公式イラスト担当
京都芸術大学通信教育部イラストレーションコース非常勤講師(美術解剖学・添削採点担当)

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